鈴木 恒平 Kohei Suzuki

音のさろん 鈴木恒平

〈プロフィール〉
国立音楽院ヴァイオリン製作科卒業後、髙橋智則氏よりヴァイオリン製作、楽器修理を学ぶ。2007年よりバイオリンショップ パガニーニに勤務。工房長 浦田幸雄氏から楽器修理、製作を学ぶ。

音のさろん 鈴木恒平

鈴木 恒平 Kohei Suzuki 作
Violin (2021)
¥1,100000

鈴木恒平さんの作る楽器は、奏者に特別な印象を与えるようです。試奏した多くの方が、その圧倒的な弾きやすさに驚きの声を上げるのです。その弾きやすさは、弦高の設定とか、指板の削り方とか、ネックの形状とか、どうもそういった要素から来るものだけでは無さそうです。それは一体どこから来るのか、考えてみたいと思います。

このヴァイオリンの特徴は、まず何といってもニスの色でしょう。19世紀のドイツ・マルクノイキルヘンで作られたような濃い茶色、コーヒーのような色です。下地の処理も暗いので、新作とは思えない風合いです。ただし、意図的な傷などのアンティーキングは極力抑え、ニスの陰影にとどめています。もちろん、このニスが音色に与える影響はあると思いますが、その特別な弾きやすさの原因では無さそうに思います。

表板の材料は、ヴィオラやチェロに使うような幅広の年輪を持っています。普通であれば、柔らかい材料の筈です。ところが、タッピングしてみると反応が素晴らしく枯れた音がします。もう一度注意深く表板を見ると、年輪とは違う方向に波紋のような模様があることに気付きます。もしかすると、今では簡単に手に入らないような古材ではないか、しかも厳選されたもの。いかにも古く見えるのは、ニスのせいだけでは無いのかもしれません。

音のさろん 鈴木恒平

裏板は一見これといって特徴の無い材料に思えます。年輪は幅広で、虎杢も一般的なものです。ただし、表板と同じように、年輪や虎杢ではない模様が確認できます。駒に使用するような堅い材料なのかもしれません。タッピングしてみると表板と同じような反応の良さを感じます。とても密度の高い、鋭い音がするのです。

そしてもう一つ、注目しなければならないことはアーチの低さです。音のさろんに展示しているヴァイオリンの中で、最もアーチが低いのではないかと思います。裏板も表板も、真正面から見るとほぼフラットではないか、と思うほどです。もちろん、横から見るとしっかりアーチがあることが分かりますが、このアーチの低さが発音の良さ、レスポンスの良さに大きく影響するように思います。

アーチを低く作ると、良い点もありますが欠点もあります。特に、強度の問題です。強度を確保する点において、鈴木さんは非常に慎重に材料を選び、適切な板厚を探し出し、そしてバスバーや魂柱も計算し尽くして設定しているに違いありません。国内でも最高峰の技術力を持つ工房での経験が、大きな助けになっていることと思います。

ネックがそれほど細くないこと、フィッティングも重厚感のあるものを採用していることから、決して華奢な楽器ではありません。弾きやすさだけでなく、音の密度も計算されています。鈴木さんは音にこだわるが余り「製作途中に音の目処が立ったところで疲れ果て、その後の見た目の部分は集中力が続かない」と仰っていました。鈴木さんの音への強い想いが伝わるエピソードだと思います。

(2025年10月16日)


音のさろん 鈴木恒平

鈴木 恒平 Kohei Suzuki 作
Viola (2024)
¥1,155,000

このヴィオラは2024年に製作されたもので、先にご紹介したヴァイオリンとは見た目がずいぶん違います。下地の色味、ニスの陰影が、より洗練されたように感じます。サイズは 41.7cm 、弦長が 37.8cm と、現時点で音のさろんに展示しているヴィオラの中で最も大きいです。このヴィオラ、この大きさにも関わらず、弾きやすさにおいて他の小さいヴィオラと遜色がないので、試奏した方はやはり驚きの声を上げるのです。

アーチはヴァイオリンと同じく、展示中のヴィオラの中で最も低いです。この楽器は本当に発音がしやすく、スムーズに音が出てボウイングにもストレスが無いのですが、この低いアーチが大きな役割を果たしていることは確かです。表板の材料は細い年輪が均一に入ったものを選んでおり、ヴァイオリンほどではありませんが十分に堅い材料と思われます。

このヴィオラは、18世紀のヴェネチアの製作家 Michele Deconet の作品をモデルとして製作されています。エレガントなアウトラインと美しく嵌め込まれたパフリング、少し傾いた控えめなf字孔が可愛らしく、大きさを感じさせない品の良さを持っています。さらに、スクロールはオールド・イタリアン特有の彫刻のような造形を再現しており、この楽器に風格を与えてくれています。

音のさろん 鈴木恒平

改めて裏板を眺めてみて、その大きさを感じさせないバランスの取れたアウトラインは素晴らしいと再認識できます。ヴィオラ製作にあたっては、音にこだわるがために特殊なアウトラインを採用する場合もありますが、このヴィオラに関しては美しさを保ちながら、弾きやすさと音色を両立させているのではないでしょうか。

ニスの陰影もよく考えて配置されており、自然に感じます。下地の色も濃すぎず、またアンティークも控えめで、それでいてコーナーについては使い古した楽器のようにすり減っていてオールドのような雰囲気を醸し出してくれています。ボタンのクラウン(ネックと裏板が接する部分の黒い王冠)も格好良いですが、そういえば…と確認すればしっかり継ぎネックが施されています。

ヴァイオリンと同じく、このヴィオラも重厚なフィッティングが採用されており、実はそれなりの重さがあります。試奏しても気が付かない方が多いので、おそらくネックとボディの重さのバランスが良いのでしょう。ネックは細くなく、手の大きさによっては少し太く感じるかもしれません。その代わり、指板のシェイプ、上ナットの高さ、弦高設定が精密に計算されており、弾きやすさを演出しています。

弦はエヴァ・ピラッツィを採用。駒を厚めに設定することで、弦のテンションをしっかりと楽器に伝えられるよう工夫されています。その響きを、是非お確かめください。

(2025年10月16日)

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