
〈プロフィール〉
1981年 鳥取県倉吉市生まれ。
1995年 中学2年生の時、ヴァイオリン製作に興味を持ち、同時にヴァイオリン演奏を学び始める。
2000年 日本初のマイスター取得者である無量塔藏六(むらたぞうろく)主宰の東京ヴァイオリン製作学校入学。
2004年 同卒業。引き続き無量塔藏六に師事、後輩の指導と共に楽器製作を深く学ぶ。
2006年 ドイツ人マイスター Andreas Preuss(アンドレアス・プロイス)主宰のプロイス弦楽器マイスター工房に勤務。楽器製作、修理、高度な修復、並びにレプリカ製作の技術を学ぶ。
2007年 2年にわたり、夏の期間フランスにて研鑽を積む。
2009年 帰郷。倉吉にて自身のアトリエを開業。オールド楽器のレプリカ製作を主として事業展開。
2013年 自身の企画による製作と演奏のイベント「弦展」をきっかけに、三朝バイオリン美術館の前身である みささ美術館の館長に就任。同年 Tottori Violin Making School(鳥取ヴァイオリン製作学校)を開校。
2015年 施設の名称を「三朝バイオリン美術館」に変更すると共に組織を法人化。経営者として美術館と製作学校の運営にあたる。
現在は三朝バイオリン美術館館長を退任し、ヴァイオリン製作に専念すると共に、主宰する鳥取ヴァイオリン製作学校にて職人の育成に注力している。
三朝バイオリン美術館/鳥取ヴァイオリン製作学校(外部リンクです)

岡野 壮人 Takehito Okano 作
Viola (2022)
¥1,485,000
2025年12月に開催された「弦楽器フェア」の『ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ製作コンテスト』において、最優秀賞を受賞したヴィオラです。会場を九段会館に移し、2024年よりも規模を拡大して行われた弦楽器フェア。ヴァイオリン系の出展者は日本人だけでも50名弱となり、ヴィオラも数多く展示されていました。その中で最優秀賞を受賞したのですから、岡野さんの実力を知るに充分の作品と言えるでしょう。なお、このヴィオラは数年前に行われた関西弦楽器製作者協会の展示会での弾き比べにおいても、最も評価された楽器に選ばれた実績を持っています。
ボディサイズは 42.8cm ですので、大型のヴィオラです。一方で、弦長は 37.6cm とそこまで長くありません。42cm を超えるヴィオラでありながら、ネックとボディのバランスを工夫して演奏者がコントロールしやすい楽器を作るという、明確なコンセプトを持って製作された楽器なのです。さらに、ヴィオラ奏者が求める音色と演奏性を実現するために、胴体の長さを確保しつつ、実は横板の高さは低めに設定されています。横板の高さを低くすることで音の輪郭がシャープになり、細かいパッセージなどが扱いやすくなるのです。
ヴィオラの製作において、最も面白く、そして最も難しいのが「モデリング」だと思います。多くの製作者が様々なアイデアや経験知を活かして、ヴィオラ奏者が求める楽器を設計することに情熱を燃やしています。どのモデルにするのか?ボディサイズをどうするか?弦長は?アーチの高さは?様々な要素を取り入れた結果、辻褄を合わせることができるのか?そして、実際に仕上がった楽器は求めていた音色を奏でてくれるだろうか?思い悩みながらも、多くの製作者が熱意を持ってヴィオラ製作に取り組んでいます。そんな中で、岡野さんがこの楽器に設定したコンセプトは明快です。大きいボディで、しかしサウンドの豊かさを求め過ぎず、あくまで扱いやすさに比重を置いているのです。

裏板を見て改めて気付くことが、その均整の取れた美しいプロポーションです。オリジナルのモデルに見えますが、元はストラディヴァリのモデルで細かいところを変更しているという事です。ボディサイズ 42.8cm で弦長を 37.6cm にする過程で、f字孔やCバウツの位置などに微調整が必要になったと推察されます。しっかりと張り出した4つのコーナーに存在感があり、全体のバランスに調和をもたらしているように感じます。また、裏板のアーチは低く抑えられているものの、とても美しい曲線でまとめられています。表板のアーチはセオリー通り裏板よりも高いのですが、特に指板下の周辺が盛り上がっています。ボディ中央部のf字孔周辺やボディ下部よりも、意識的にアーチを形成したように思えます。全体に低めに設定されたアーチにも関わらず、弦のテンションをしっかりと支えることができるように工夫されているのではないでしょうか。
ニスは師である Andreas Preuss 仕込みの本格仕様のオイル・ニス。岡野さんはニスについても研究を重ねていて、三朝バイオリン美術館には過去に岡野さんが収集した数多くのサンプルが展示されています。あまりの種類の多さに私が美術館を訪れた際には詳しく説明してもらう時間がなかったのですが、いつかニスについて勉強する機会を作っていただけたらと思っています。深く暗い赤色のニスに人工的に生み出されたニス割れなどのエイジングが施されており、新作とは思えない風格を持っています。フィッティングはイタリアのボガーロ・アンド・クレメンテ、駒にはオベールのラックスを採用。弦はエヴァ・ピラッツィで統一されています。素晴らしい発音と演奏性の高さ。ぜひオーケストラ・プレーヤーにお勧めしたい逸品です。
(2026年1月11日)


岡野 壮人 Takehito Okano アトリエ作品
Violin (2023)
¥440,000
岡野さんのアトリエで製作された Made in Japan のヴァイオリンです。製作工程を簡素化することで、この価格での販売を実現できました。譲れる部分と、譲れない部分。岡野さんのヴァイオリン製作への想いが詰まったアトリエ作品です。
(2026年1月11日)
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