中西 桂仁 Keiji Nakanishi

音のさろん 中西桂仁

〈プロフィール〉
栃木県生まれ。多摩美術大学卒業。
Gio Batta Morassiの弟子である岩井孝夫とGiorgio Scolariの弟子である鈴木郁子の両氏が主宰していた大阪のヴァイオリン製作学校「ヴァイオリン工房クレモナ」にて、伝統的イタリア・クレモナスタイルの製作技術を学ぶ。
帰郷後、2002年より弦楽器工房「ばろりん屋」を開業。ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの製作を中心に、修理、調整等を行う。2019年 VSA NEW INSTRUMENT EXHIBIT に出展。日本マスターヴァイオリンメーカーズ会員。関西弦楽器製作者会員。

音のさろん 中西桂仁

中西 桂仁 Keiji Nakanishi 作
Violin (2025)
¥1,320,000

中西桂仁さんは常に進化を求める製作家です。「深化」と言っても良いのかもしれません。新しい楽器を見せていただく度に、以前の楽器と何かが違います。いろいろお話を伺ってみると、最近は一度使った木型を三度使うことがほとんど無い、という話。二度までは使うということですが、ほぼ毎回木型を一から作るというのは大変なことです。楽器を製作する前にはまず木型を作るところから始めますが、普通は一度作ったら何度も使います。製作家にもよりますが、例えばイタリアのメーカーだとストラドモデルで数個、ガルネリモデルとか他のモデルで数個、それらを使い回しているという方が多いのではないでしょうか。中西さんが作るヴァイオリンは、ほとんどガルネリモデルです。それで、作るヴァイオリンごとに木型が違うのです。わざわざそんなに手間のかかることをするのは、毎回製作のたびに新しいアイデアを思い付いたり学んだりして、そしてそのアイデアを次のヴァイオリンで形にしたい!という想いが強いのだと思います。

今回の楽器の話に入りましょう。ガルネリ・デル・ジェスが1743年に製作した「Sauret」という楽器がモデルになっています。オリジナルのボディサイズは35.1cmですが、中西さんの楽器は35.3cmで製作されています。表の雰囲気は写真で見る限り、オリジナルにとても良く似ています。非常に手の込んだアンティーク・フィニッシュです。オリジナルの表板は左右マッチングしていませんが、中西さんの表板は繊細な冬目が非常に良く詰まっており左右マッチングしています。オリジナルのアーチは実物を見たことが無いため正確には分かりませんが、このヴァイオリンのアーチは f字孔の辺りのふくらみがしっかりしており、それがネックとのジョイント部分とテールピース下の部分に広がっていくイメージで、とても丁寧に慎重に仕上げられたものだと分かります。

オリジナルの「Sauret」についての情報(外部サイトへのリンクです)

音のさろん 中西桂仁

裏板の雰囲気はオリジナルと少し違います。中西さんによると、コピーを製作するという意識は無かった、ということでしたが、パッと見た瞬間の雰囲気というか迫力がすごい裏板で、オリジナルを真似て作ったわけではないのであれば、今まで培ったアンティーク・フィニッシュの技術の結晶と言ってよいのかもしれません。中央部分のふくよかなアーチが特徴的で、タッピングした時の反応も素晴らしいです。このヴァイオリンから、厚みやアーチを仕上げる時に今まで以上に「音」を意識して製作したということで(製作家がチューニングと呼ぶ作業です)実際に結果に繋がっているのではないでしょうか。

スクロールはガルネリらしさを程よく出しつつ、とはいえ歪にならないよう丁寧にまとめられています。製作者のセンスを感じます。ニスは今までになくマットな仕上げです。好き嫌いはあるかもしれませんが、これが中西さんの現時点での到達点だと思うと楽しい気持ちになります。弦はスタンダードにドミナント&ゴールドブロカット。ドイツの「MILO STAMM」の駒が立っているところにも、音へのこだわりを感じます。

ところで中西さん。このヴァイオリンを最後に、一般的な木型を使うのを止めるつもり、と聞いています。イタリアのマウリツィオ・タディオーリが採用している「ゴースト・モールド」で製作されるのでしょうか!?それとも別の方法?次に仕上がる楽器と比べてみるのも楽しみです。

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