
〈プロフィール〉
大阪府吹田市出身。岩井孝夫氏、鈴木郁子氏が主催する「バイオリン工房クレモナ」で、製作の基礎を学ぶ。その後、2002年より、夫の中西桂仁と共に「弦楽器工房ばろりん屋」をオープン。現在も栃木県栃木市にて、バイオリンとビオラの製作を続けている。

中西 綾 Aya Nakanishi 作
Viola (2025)
¥1,320,000
ヴァイオリンと見間違えるほど、小さなヴィオラです。ボディ長は 36.6cm で一般的なヴァイオリンとはわずか 1.0cm の差しかありません。弦長も 33.8cm なのでちょうど 1.0cm の違いです。ヴァイオリン奏者にとっては、普段使っているヴァイオリンとほとんど変わらない感覚で演奏することができるヴィオラではないでしょうか。
このヴィオラの特筆すべきところは、サイズだけではありません。一般的には、弾きやすさを重視して小さいヴィオラを作った場合、音色が犠牲になることがほとんどです。ヴィオラらしい音色は、大きなボディと長い弦長とは切っても切れない関係で、多くのヴィオリストが日々「できるだけ自分に弾きやすいサイズで、もっと良い音色を!」と楽器選びに苦心しています。ところが、このヴィオラは小さいサイズにも関わらず、いかにもヴィオラらしい、豊かな音色を奏でてくれるのです。(試奏した多くのプレイヤーの皆さまが驚嘆しています!)
モデルとしたのは1785年にG.B.ガダニーニが製作した楽器です。オリジナルのサイズは約40cm。ガダニーニのこのモデルは小さめのヴィオラとして非常に完成度が高く、多くのメーカーが採用しています。代表的なサイズとしては 38cm 程度のものが多いように思いますが、このヴィオラはさらに小さい。中西綾さんは「Small Viola」の製作家と自認していて小さなヴィオラの製作を得意としていますが、この 36.6cm のヴィオラはまさに看板モデルと言って良いでしょう。

このヴィオラの表板と裏板と横板、そしてネックに使われている材料は全て、今は廃業した製作家が 20年以上シーズニングしたものです。見た目が派手ではありませんが、特に表板は冬目が強く夏目が広く、しかも硬い。いかにも低音と相性が良さそうです。長い年月を同じ環境で共にした材料を使って1本の楽器を作っているところも、良い影響を与えているように思います。
アーチは全体にややフラットに感じますが、実は中心部に向かってなだらかな隆起が自然に形成されていて、特にCバウツ(楽器中央のくびれの部分)付近でのアーチの作り方が秀逸です。この楽器の豊かな音色に大きな影響を与えている部分だと推察されます。ニスはオイル・ニスのアンティーク・フィニッシュ。程よい色調、そしてアンティーキングで、中西綾さんのセンスの高さを感じさせてくれる部分です。
ガダニーニのスクロールはあまり美しくないことで知られていますが、このヴィオラのスクロールは何となくですがガダニーニらしさを感じつつも、美しく丁寧に仕上げられています。弦は弦長の短さを考慮したセレクションとなっており、A線にはラーセン、DGにはエヴァ・ピラッツィ、そしてC線にはヴィジョン(タングステン・シルバー巻)を採用しています。若干の張りの弱さを感じるものの、ほとんど気にならない弾き応えです。小さいヴィオラをお探しの方、ぜひ一度このヴィオラを弾いてみてください!
(2026年3月24日)
♩ ♩ ♩
