
〈プロフィール〉
東京生まれ。2004年渡伊。 イタリア国立クレモナ国際ヴァイオリン製作学校(I.P.I.A.L.L.)に入学。M Alessandro Voltini, M Giorgio Scolari に師事。2008年卒業。 在学中より M Sandro Asinari、M Giorgio Scolari 他複数の工房で研鑽を積む。その後 Jens.J.G 工房で2年、ロンドンの工房で短期間、修理・修復を学ぶ。2013年帰国し、都内で弦楽器製作・修理工房を営む。

粟林 雅広 Masahiro Awabayashi 作
Viola (2019)
¥1,430,000
このヴィオラを持った時の第一印象は、楽器が軽い、そしてネックが握りやすいということです。そして、音を出してみると、とても自然にスムーズに発音してくれます。弓の通りも滑らかです。ストレスを全く感じません。ヴィオラを演奏する際に、楽器の重さや発音のしにくさで苦労している方は多いのではないでしょうか?このヴィオラは、そんな悩みから奏者を解放してくれる楽器です。(ボディ長 40.6cm/弦長 37.2cm)
楽器が軽い、といっても極端に板厚を薄く作っている訳ではありません。駒の周辺にはしっかりとした厚みがあり、他の楽器と比べても厚いくらいです。なぜ楽器が軽いのかというと、比重が軽い木材を選び(おそらく表板はイタリアのアベーテ・ロッソ、横裏ネックはボスニア材と思われます)必要な部分の厚みを残しながら、不要な厚みだけを慎重に削り落としているからだと思います。さらに、フィッティングにボックス・ウッドを採用していることも大きな要因です。
粟林さんはイタリア・クレモナにおいて、当時日本でも大変人気のあった製作家サンドロ・アジナリの下で修行しました。アジナリはモラッシ門下でありながら、そのメソッドに固執することなく、長所を生かし短所を解消する努力をして成功した製作家です。特に粟林さんが工房にいた頃は彼の全盛期と呼べる時期で、たくさんの素晴らしい楽器を製作しました。粟林さんは、アジナリの仕事を傍で見つめ、プレーヤーが求める楽器は何かということを学んだのではないかと思います。

裏板は虎杢をブックマッチさせず、一枚板のような木目にして合わせています。節のような木目が左上と右下に確認できますが、それを殺さず活かすために、あえてブックマッチにしないことを選んだのではないでしょうか。洗練されたセンスを感じます。とても硬く、そして白いメイプル材を選んでおり、表板との相性が非常に良さそうです。
このヴィオラが持つアーチにも注目しなければなりません。表板には指板の下からテールピースにかけてしっかりとしたアーチがあり、弦の張力を支えています。裏板は全体にふっくらとしたアーチがあり、特に中央部のふくらみは迫力さえ感じます。クレモナの現代の製作家にはあまり見られないアーチです。このアーチにより、楽器の強度も確保されているので耐久性も十分と思われます。どうしてこのアーチに辿り着いたのか、粟林さん本人にいつか伺ってみたいと思います。
スクロールの面取りも、この楽器のチャームポイントです。仕事がひと手間増えるので腕に自信があり木工好きでないとやらない、などと言うと言い過ぎかもしれませんが、この面取りに限らず粟林さんの楽器作りは細部に至るまで精細な仕事が一貫しており、職人として誠実で真摯な方なんだな、と心を打たれます。
弦はピラストロ社のパーペチュアル。この楽器の持つ個性に、とても良く合っていると思います。丁寧に美しくセットされた駒、磨き上げられた指板、そして上ナットと下ナットの整形。細かな配慮が各所に行き届いており、このヴィオラの弾きやすさに貢献しています。
(2025年10月14日)
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