河村 盛介 Seisuke Kawamura

音のさろん 河村盛介

〈プロフィール〉
イギリス・ノッティンガム州にあるニューアークバイオリン製作学校を卒業。在学中は、Robert Cain, Patrick Jowett, Susanna Sillberg, Peter Smith, Paul Gosling, Paul Harrild, Kerry Boylanより、バイオリン族楽器の製作および修理・修復を学ぶ。卒業後は、イギリス人製作家 Glen A. Collins の指導の下さらに製作技術の研鑽に励む。2008年に帰国。現在は東京都荒川区西日暮里に工房を構え、バイオリン製作家としてアンティーク仕上げのバイオリン・ビオラ・チェロの製作を中心に活躍している。

音のさろん 河村盛介

河村 盛介 Seisuke Kawamura
Viola (2025)
Sold

河村さんの最新作のヴィオラです。ガルネリ・デル・ジェスの祖父アンドレア・ガルネリが1676年に製作したとされる名器「コンテ・ヴィターレ」をモデルとして製作されました。アンドレア・ガルネリのヴィオラは最晩年に製作された「プリムローズ」も有名(大塚紀夫さんのページに記載)ですが、「コンテ・ヴィターレ」はそれよりも20年以上も前に製作されており、マントヴァのピエトロ(デル・ジェスの伯父)の手が入った楽器と推察されています。どちらも名器であることに変わりありませんが、詳細な情報が共有されている点において「コンテ・ヴィターレ」の方が多くのメーカーによりモデルとされています。

河村さんはオリジナルの楽器のサイズ(ボディ長 41.9cm)ではなく、サイズを縮小して製作する事を選びました。ボディ長は 40.7cm、そして弦長は 36.5cm で製作されています。オリジナルの楽器が持つボディの大きさをある程度保ちつつ、多くの人が演奏しやすいように弦長を短めに設定したのです。また河村さんの楽器の特徴と言って良いと思いますが、楽器が適度に軽いことも弾きやすさに貢献しています。40cmを超えるボディ長にも関わらず、600g以下の総重量(あご当て等を含む)のため、非常に構えやすい楽器となっています。音色、音量、そして演奏性、どれを取っても申し分のない、誰にでも弾きやすく音にも満足できるヴィオラに仕上がっています。

音のさろん 河村盛介

この裏板を是非ご覧になって下さい。アンドレア・ガルネリの師であるニコロ・アマティの楽器のように美しく均整の取れたプロポーションです。オリジナルの楽器に似せた虎杢の材料を使うなど、的確に特徴を捉えながらも、より洗練された印象を受けます。嵌め込まれたパフリング、エッジの立て方、コーナーの整形、そしてパフリング周辺からいったん沈み込んで中央に向かって立ち上がってくるアーチ、どれをとっても精細で丁寧、そして優しさと柔らかさに溢れた造形です。本物のガルネリよりも素晴らしいのではないか、と思わず言いたくなる程です。

表板にはハーゼと呼ばれる木目と直行する模様が入っており、硬質な材料であることが分かります。裏板と同じようにいったん沈み込んで立ち上がってくるアーチは、ハイ・アーチと言って良いと思いますが、とても自然な曲線で整えられているため違和感がありません。そしてf字孔は、古楽器を思い起こさせるような品のある端正な顔立ちをしています。材料の木目が美しく映えるゴールデン・イエローのニスも大きな魅力です。ヘッドの形状はオリジナルに倣ってチェロ型ですが、演奏性を考慮して少し小さめに作られています。スクロール(渦巻き)をオリジナルの写真と見比べてみると、あまりに似ているので驚きました。本当に細部にまでこだわって、丁寧に作られている楽器です。

河村さんは次作のヴィオラでは、オリジナルに近いサイズでの製作にチャレンジするつもりと伺っていますので、その楽器の仕上がりも本当に楽しみです。

(2026年2月17日)


音のさろん 河村盛介

河村 盛介 Seisuke Kawamura
Viola (2018)
¥1,100,000

ガルネリ一族の中で最も美しい楽器を製作したとされる「マントヴァのピエトロ」ことピエトロ・ガルネリ。ガルネリ・デル・ジェスの伯父にあたります。(もう一人のピエトロ・ガルネリはデル・ジェスの兄で、ヴェニスのピエトロと呼ばれています)
河村さんが2018年に製作したこのヴィオラは、そのピエトロ・ガルネリのヴァイオリンを参考にして製作されました。小さいボディサイズでも、弦長を長くすることでヴィオラらしい音を生み出すことが出来ると考えていた河村さん。ピエトロのモデルでヴァイオリンを製作した時に、このモデルをヴィオラのサイズに拡大するとボディとネックの長さの関係性を損なうことなく小さくて弦長の長いヴィオラを製作できる事に気が付いたのです。

このヴィオラのボディ長は 39.5cm そして弦長は 37.0cm です。このサイズのヴィオラにしては 5mm ほど弦長が長いため、弦を弾くとしっかりとしたテンションを感じます。さらに、アーチを高めに設定する事でボディ内の容積を大きくし、ヴィオラらしい音色がするように工夫されています。横板の高さを高くすれば容積をもっと大きくできた筈ですが、あえて少し低めに設定しているためにレスポンスが素晴らしく、深く渋い音というよりかは「明瞭かつ温かみのある音色」というのが的確な表現のように思います。

音のさろん 河村盛介

この時期の河村さんのニスは少し赤色が強くマットな印象です。最近の作品のような地色が輝く透明感の高さはありませんが、品の良い落ち着いたニスでオールドのような風合いを持っています。そして、材料の美しさも損なっていません。表板も裏板も、年輪の詰まった良質の材料を使用しており、時間の経過とともに音が成長してくれることを期待させてくれます。

マントヴァのピエトロといえばアーチが高いことで有名ですが、そのアーチをここまで美しく再現することが出来る製作家を、私は他に多く知りません。もし他に名前を挙げるとすれば、ビソロッティの後継者として名高いイタリアのロレンツォ・カッシでしょうか。河村さんもカッシも、美しいハイ・アーチが充分に満足できる音を奏でてくれることを証明してくれています。

f字孔は細く、とても優美な形です。他方、スクロールは存在感がありますが、やはり柔らかい曲線で仕上げられています。いかにも、マントヴァのピエトロらしい美しさです。河村さんの楽器らしく適度に軽く、構えやすいことも大きな魅力です。弦はエヴァ・ピラッツィとラーセンの組み合わせ。強い弦のテンションにも耐えられる強度を持った楽器ですので、最適なセレクションだと思います。

(2026年2月19日)


音のさろん 河村盛介

河村 盛介 Seisuke Kawamura
Violin (2024)
Sold

アンティーク・フィニッシュで、これだけ完成度の高いストラディヴァリ・モデルを作れる製作家は、世界にもそう多くはいないのではないでしょうか。このヴァイオリンを初めて見た時「この楽器は音のさろんに置かせていただきたい!」と心から思いました。アンティーク・フィニッシュを得意とする製作家の多くが、ガルネリ・デル・ジェスのモデルで製作しており、ストラディヴァリ・モデルを避ける傾向にあります。過去に海外で何本かの楽器を見たことがありますが、印象に残る楽器はありませんでした。実は河村さんも、過去にはストラディヴァリ・モデルの製作が少なく、主にガルネリ・モデルで製作していました。ところが2017年に初めて「Huberman 1713」のモデルを製作して以来、このヴァイオリンで8本目の製作となります。河村さんは、遂にストラディヴァリ・モデルを手の内に入れることができたのです。

河村さんはこのモデルを製作する際に、ストラディヴァリの楽器についての詳細な資料を研究、特にアーチングや厚みについて調べました。もちろん、オリジナルは300年前に作られた楽器ですので、全てを同じように作ることはできません。しかし、河村さんはオリジナルの楽器が持つ「いびつさ」に注目。腕の良い職人であればあるほど、どうしても正確に、左右対称に作りたくなりますが、あえてそこを崩すことにしたのです。河村さんは大学で物理学を修めたため音響学にも造詣が深く、その知識を元に独自の「チューニング」を実施。意図的に板の厚みを左右非対称にしているのです。

音のさろん 河村盛介

美しい虎杢の入った裏板です。奇をてらわず、まっすぐに、材料の持つ美しさを存分に活かした裏板と言って良いでしょう。河村さんの楽器は美しくまとまりがあるだけでなく、とても落ち着いた雰囲気を持っています。それは、アンティーク・フィニッシュといえども、新作の楽器として健康的な楽器を作りたい、それでいて見た目の雰囲気がある楽器を作りたい、という河村さんの誠実な姿勢が生み出したものと言えると思います。

河村さんの楽器が持つもう一つの大きな特徴は、そのアーチングです。表も裏も、しっかりとアーチが立ち上がっています。さらに、モデル毎にアーチの立ち上げ方を変えているところが素晴らしいのです。このストラディヴァリ・モデルの表板は、ネックの付け根からテールピースにかけての縦のラインにしっかりとしたアーチがある一方で、パフリング付近はフラットに仕上げており、それらを繋ぐ中央部から周辺に向けての稜線は非常に慎重に処理されています。河村さんの、アーチングに対する鋭い感覚を見ることができます。

端正な f字孔、さすがアンティーク・フィニッシュの本場イギリス・ニューアーク仕込みと思わせるエッジの出し方、とても品があり綺麗にまとめられたスクロール。細部に至るまで本当に美しい楽器です。そして、それに見合うだけの音を持っています。どちらかというと、明瞭闊達でバランスの良い音と言って良いでしょう。演奏する側が音楽を自由に表現できるタイプの楽器です。弦はスタンダードなドミナントとゴールドブロカットの組み合わせ。他の弦に変えても柔軟に対応してくれる楽器だと思います。

(2025年9月11日)


音のさろん 河村盛介

河村 盛介 Seisuke Kawamura
Violin (2023)
¥1,100,000

とてもチャーミングなこのヴァイオリンは、18世紀のヴェネツィアの製作家 Anselmo Bellosio のモデルで製作されました。河村さんは、ロシア出身のヴァイオリニスト「アリーナ・イブラギモヴァ」がオリジナルのヴァイオリンを演奏している姿を見て、このモデルで製作することを決めました。資料が少ないため、製作には苦労をしたということです。

まず特徴的なのが、その細いパフリングです。それも、エッジのギリギリのところに丁寧に嵌め込まれているので、とても繊細な印象を受けます。肩のアウトラインもなだらかで柔らかい印象です。一方で、4箇所のコーナーはしっかりと張り出しており、力強さを感じます。これらを、丁寧に加工されたエッジによりひとつの造形として統合しています。f字孔も特徴的です。ストラディヴァリというよりかは、アマティに近い形です。とても美しく品があります。

アーチングは全体的に高く感じます。ストラディヴァリ・モデルよりも中央部分の膨らみが広く周辺まで広がっているのです。このアーチを、先にご紹介したエッジに帰結させるのは簡単なことではないと思いますが、見事にまとめ切っている河村さんの技術には脱帽です。これだけレベルの高いアーチングの技術を持っている方は、そう多くはいないと思います。

音のさろん 河村盛介

この裏板を眺めていると、保存状態が素晴らしいアマティかと見紛ってしまいそうです。オリジナルの Bellosio またはアマティのアーチングとは、もちろん違うのですが、全体のプロポーション、それに雰囲気が、オールド・ヴァイオリンを想起させるのです。表板よりも裏板の方がより、中央部の膨らみが幅広いように見えますが、アーチが高くなりすぎないよう絶妙にコントロールされているため、実はハイ・アーチではありません。

皆さん、そろそろこの楽器の音色が気になってくる頃だと思います。同じ河村さんが製作したストラディヴァリ・モデルと比べてみましょう。ストラディヴァリ・モデルは、とてもスムーズに音が出て、しかもパワーがあります。この楽器は、もう少し引き締まった感じで音が出てきます。ボリュームは十分です。より透明感が高く、もしかすると遠達性もあるかもしれません。是非、弾き比べていただいて、皆さんの感想をお聞かせいただければ嬉しいです。

ニスはストラディヴァリ・モデルに比べるとゴールデン・イエローの部分が多く、より木地そのものの美しさが際立っています。照明に当てると、実に美しいリフレクションが見られます。スクロールはオリジナルの Bellosio の特徴をよく捉えていて、キュートに仕上げられています。弦はヴィジョンとゴールドブロカット。こちらの楽器も、弦を変えることで様々な可能性を試すことができそうです。

(2025年9月11日)

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