〈プロフィール〉
高校卒業後18歳でイタリア・クレモナのバイオリン製作学校に入学。2004年同校のディプロマを取得。在学中から卒業後までの約4年間、F.ビソロッティ& Sons の工房で製作を学ぶ。その後、B.カールソン&B.ノイマンの工房で修理を学ぶ。26歳の時に帰国し国内の専門店等で5年間勤務した後、2011年に独立。元代官山音楽院バイオリンクラフト&リペア科講師。日本弦楽器製作者協会 理事(2024〜)
〈主な受賞歴等〉
2022年 ドイツ・ミッテンヴァルト国際バイオリン製作コンクール入選
2024年9月 イタリア・ストラディヴァリ国際コンクール(トリエンナーレ)ビオラ部門ファイナリスト(6位入賞)・名誉賞受賞。同部門において音響合計点1位を獲得する
江畑 正一 Shoichi Ebata 作
Violin (2022)
¥1,430,000
素晴らしい精度で製作されたヴァイオリンです。写真撮影のためにスタンドに立てた時、全くグラつかず真っ直ぐに立ってくれたので驚きました。精度が全てとは言いませんが、大きな指標になることは確かです。江畑さんは現代イタリアの弦楽器製作に大きな足跡を残したフランチェスコ・ビソロッティの工房で修行した、数少ない日本人製作家の一人です。ビソロッティはストラディヴァリの残した遺品の研究を行い、その成果を公表して同時代人に共有しました。多かれ少なかれ、現代の製作家の多くが何らかの影響を受けていると言って良いでしょう。江畑さんは、そのビソロッティから直接薫陶を受け「Internal Form」いわゆる内枠を使用しての製作方法を習得しました。ビソロッティの製作方法では非常に高い工作精度が求められますが、それだけでなく、工房内は常に高い緊張感に包まれており、そのような場での修行は江畑さんにとって大きな糧となったと想像できます。
このヴァイオリンは2022年に製作されました。江畑さんがオイル・ニスを使用してドイツの製作コンクールに出品し、入選を果たした1本です。江畑さんは従来アルコール・ニスを使用し、コンクールにも出品していました。しかし、近年のコンクールではオイル・ニスを使った楽器の方が音響審査でのパフォーマンスが高いことが分かり、その研究を始めます。オイル・ニスの塗装技術が向上し、その知識が広く共有されたことも影響したと思います。このヴィオリンが完成したとき、江畑さんは自身のオイル・ニス研究の成果に自信を深めます。そして、世界的にも格式の高いコンクールであるドイツ・ミッテンヴァルト国際ヴァイオリン製作コンクールにこの楽器を出品、見事に入選を果たすことができたのです。
裏板の木目を見て、また驚きがあります。虎杢の方ではありません。年輪です。表板と変わらないほど非常に細かな夏目と冬目が入っています。目の入りも垂直で、正確にカットされたことが分かります。最上級の材料と言って良いでしょう。表板の木目も、濃い冬目が細かく入っており、選び抜かれた材料に違いありません。さすが、コンクールに出品するだけのことはあると、感嘆してしまいます。
モデルは一見ストラディヴァリに見えますが、そうではなく、フランスの現代製作家の作品を参考に製作したということです。アーチも、よく注意して見ると特に裏板の中心あたりにやや強めのふくらみがあることに気が付きます。エッジやコーナーの仕上げも、イタリアンというよりフレンチのような印象を受けます。それぞれ、おそらく見た目ではなく、より良い音を目指して精密に部分部分の処理を行っていった結果なのではないでしょうか。実はここ何年もの間、江畑さんは常により良い音を求めて試行錯誤をしているように見えました。この造形は、江畑さんの「音」への強い探究心によって生み出されたものだと思います。
パフリング、スクロール共に、非の打ち所がなく、完璧な造作です。それ以外の言葉はありません。ぜひ一度、じっくりと実物をご覧になっていただきたいです。弦はピラストロ社のパーペチュアルを採用。新素材コアにより、チューニングの安定性に優れ、ボリュームがあるだけでなくフォーカスしたサウンドを実現した弦です。駒、魂柱も慎重にセットされており、最高にチューンアップされた状態でご覧になっていただけます。